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ふたつの新聞記事

  先日から古い資料などを整理していている。
  整理とは見なおしでもあるので、気になったものはいやでも詳しく見る、あるいは読むことになる。

 二つの記事が気になったので、概要だけを記しておく。
 整理の対象はある時期に自分自身で選択した ものなので、どれもその時を反映している。大半は引き続いて手元に置くことになるのだろうが、私に残された時間はそんなに長くはないので、改めて「いま」という時点で選んだものを順次紹介していきたいと思う。
  たぶん、それは、人に知らせるとというよりも、自分自身を知って欲しいという欲から出るものなのだが、それであっても少しは人に何かの参考になって欲しいと願っている。

 なお私の記事では原則として敬称は省略している。これは決して敬意をもつていないのではありません、念のため。

 

 前置きがながくなったが、二つの記事はいずれも今から7年前、自分自身は不遇であった時期、2009年5月20日付の朝日新聞のものである。
 実は同じ「文化」面に載っていた。

 ひとつは「汚染される人間生を予言 英SF作家J・G・バラードを悼む」。書いているのは映画評論家・翻訳家 柳下毅一郎である。
 簡単に書く。
 バラードは一時期好きで手に入る本は読んでいた。たぶんとしか言えないが、いまも好きな作家のひとりである。終末世界を描いた数々の作品はいかにも現実に起こりそうな未来である。映画化されたものも数点あり、現在は「ハイ・ライズ」が映画制作中と聞く。
 ジャンルという点からいえば、もともとはSFというより幻想を好んでいたたため、このジャンルではまずレイ・ブラッドベリからスタートした。
  ある時にバラードの名前を耳にしてその後は様々な作品を読むことになった。すべてではないけれど大体の作品は読んだと思う。
 なかなか難しいころもあるのだが、それでも描かれている終末世界は終末にもかかわらず、いや終末だからこそと言うべきか、魅力的である。この先に実際に実現するだろう世界を予言していると感じられるからかもしれない。
 記事の最後の部分を引用しておく。
   「バラードはテクノロジーと人間の関係について、それまでどんな作家も書かなかったことを書いたのだ。バラードがしばしば現代の予言者と呼ばれたのは、誰よりも早く的確に現代社会の生のあり方を指摘してのけたからである。それこそが二十世紀最大の作家が残したものなのだ。」

 

 もううひとつの記事にうつる。「私の収穫Ⅰ 平和の神」というタイトルで、書いているのは免疫学者 多田富雄である。
 その当時東京国立博物館で開催されていた「国宝 阿修羅展」で「阿修羅像」を観た感想が書かれている。
  古都奈良(!)に住むものにとっては比較的容易に拝観できるのだが、その他の地に住む人にとっては首都と言えども難しいものではある。
 多田富雄柳澤桂子との往復書簡集『露の身なれど』で知り、いくらかの著作を目にしていた。
  ここでは荒ぶる破壊の神阿修羅が優しい少年の姿となっている「阿修羅像」に平和と寛容の精神をみてとっていると書かれている。
  あのどこか悲しみを帯びた表情はそのように思わせるものがあり、そしてとても美しい。戦い続けなければならない存在であるからこそ、一瞬見せた優しさなのかもしれない。あるいは実は心の中は常に悲しみに満たされているのかもしれない。


 この戦い続ける神としての阿修羅をテーマにした物語がある。光瀬龍百億の昼と千億の夜』である。はじめはコミック化された週刊誌で読んだと思う。コミックの作者は萩尾望都である。その後光瀬龍の原作を読み、そしてまたコミック版を読んだ。
 実に印象深い文章である。現在市販されているものにはこの記事は載って いない。  「あとがきにかえて」の後半は阿修羅像について書いている。すべてがいいので全部を引用したいのだが長くなるので一部にとどめる。
 「私は興福寺の阿修羅像が大好きです。純粋に造形的な興味もさることながら、この増が多くの人に愛されるのはその愁いを含んだあどけない顔立ちにあるのでしょう。(中略)興福寺の阿修羅像のあの憂愁に閉ざされた眉をごらんなさい。泣き出すこともできず、自嘲の笑いと手もなく、絶望を超えた無効からひたすらにみつめるまなざしは、絶対者に向かって”なぜ?”と問いかけているのです。そのひとみの奧には、ひそかに愛した一人の少女の面影もすでになく、おのれの命運を掌握するものへのつきることのない問いかけだけがあるのです。おくには(中略)興福寺阿修羅王像は私に幾つかの物語をあたえてくれました。そしてこれからも新しい物語を与えてくれるでしょう。今、つめてい雨が降っています。明日は雪になるかもしれませんが、また阿修羅王像に会いにいってこようかと思います。」

           ※この記事は2016年4月12日の記事を修正したものです。
           ※当初の記事は重複するので削除しています。

                                 Biblio Kei  2016/05/22